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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)90号 判決

大阪市平野区加美北8丁目11番17号

原告

吉村富雄

訴訟代理人弁理士

亀井弘勝

稲岡耕作

川崎実夫

大阪府八尾市南木の本4丁目1番地の4

被告

有限会社濱本製作所

代表者代表取締役

濱本春男

訴訟代理人弁護士

山上和則

西山宏昭

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成9年審判第7511号事件について、平成10年2月6日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「戸車」とし、その形態を別添審決書写し別紙記載のとおりとする登録第976682号意匠(平成7年8月10日登録出願、平成8年9月27日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。

被告は、平成9年5月7日、本件意匠につき無効の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成9年審判第7511号事件として審理したうえ、平成10年2月6日、「登録第976682号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同月26日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、請求人(本訴被告)の主張する無効理由3について、本件意匠が、昭和61年12月17日公開の公開実用新案公報に所載の昭61-201470号に記載された第1図、第3図及び第5図に現された「コロ」の意匠(審決甲第1号証、本訴甲第2号証の1、考案の名称は、「戸車構造」、その形態は、別添審決書写し別紙第二記載のとおり。以下「引用意匠1」という。)、昭和60年5月15日公開の公開実用新案公報に所載の昭60-68270号に記載された第3図に現された「戸車」の意匠(審決甲第2号証、本訴甲第3号証の1、考案の名称は、「引戸装置」、その形態は、別添審決書写し別紙第四記載のとおり。以下「引用意匠2」という。)、昭和52年8月13日発行の意匠公報に所載の意匠登録第454610号意匠(審決乙第2号証、本訴甲第5号証、以下「公知意匠1」という。)及び昭和58年10月5日発行の意匠公報に所載の意匠登録第609733号意匠(審判での職権調査による証拠、本訴甲第6号証、以下「公知意匠2」という。)の周知意匠に基づいて、容易に創作できたものであるから、意匠法3条2項の規定に違背して登録されたものであり、その登録を無効とすべきものとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本件意匠が、意匠に係る物品を「戸車」とし、その形態を別添審決書写し別紙第一記載のとおりとすること、引用意匠1が、その形態を別添審決書写し別紙第二記載のとおりとすること、引用意匠2が、その形態を別添審決書写し別紙第四記載のとおりとすることは、いずれも認めるが、その余は争う。

審決は、甲2号証の2の意匠(審決甲第1号証の二、請求人(本訴被告)が、本訴甲第2号証の1の第3及び第5図を参考に作図したもの。その形態は、別添審決書写し別紙第三に示すとおり。以下「引用参考意匠1」という。)を誤認する(取消事由1)とともに、甲3号証の2の意匠(審決甲第2号証の二、請求人が、本訴甲第3号証の1の第2及び第3図を参考に作図したもの。その形態は、別添審決書写し別紙第五に示すとおり。以下「引用参者意匠2」という。)を誤認し(取消事由2)、本件意匠と引用意匠1及び2との対比判断を誤って(取消事由3)、これらの意匠から本件意匠が容易に創作できるとしたものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  引用参考意匠1の誤認(取消事由1)

審決では、被告が、引用意匠1(審決甲第1号証、本訴甲第2号証の1)の第3及び第5図を参考に作図したとする引用参考意匠1(審決甲第1号証の二、本訴甲2号証の2)について、正しく作図したものかどうか不問に付してその形態を認定している(審決書10頁12行~11頁7行)が、引用参考意匠1は、上記第3及び第5図を参考にして描いたとは思えないほど寸法を変えて作図したものであるから、誤りである。

このような図面上の寸法の誤りは、意匠のイメージを異なったものとして視覚されるおそれがあるところ、引用意匠1の第3及び第5図の図面寸法どおりに意匠図面を描くと、ずんぐりとした外径のわりに厚みのある形態となるものであって、本件意匠と大きく異なる。

2  引用参考意匠2の誤認(取消事由2)

審決では、被告が、引用意匠2(審決甲第2号証、本訴甲第3号証の1)の第2及び第3図を参考に作図したとする引用参考意匠2(審決甲第2号証の二、本訴甲3号証の2)について、正しく作図したものかどうか不問に付してその形態を認定している(審決書12頁9行~13頁7行)が、引用参考意匠2は、上記第3図とは寸法が相違しており、しかも、内部形態が定かでないにもかかわらず、推測による独断で内部充実形態に基づく断面図を描いてあるから、誤りである。

前述のとおり、図面上の寸法の誤りは、意匠のイメージを異なったものとして視覚されるおそれがある。

3  対比判断の誤り(取消事由3)

(1)  審決では、「そこで、請求人が主張するように本件登録意匠が、甲第1号証及び甲第2号証に記載の意匠に基づいて容易に創作できたものであるかについて審案するに、本件登録意匠及び甲第1号証並びに甲第2号証の形態については、前記の認定のとおりである。」(審決書13頁9~14行)とされているが、上記引用参考意匠1及び2の戸車の形態について、寸法を故意に描き直した図面の印象どおり認定することは、重大な誤りといえる。

(2)  審決では、戸車の基本的構成態様について、「肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめでやや薄肉の中円盤部を突出し、さらに、この中円盤部から、該部より小径で極薄肉の小円盤部を突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し、側面の中央に軸着貫通孔を設けた態様のものが、その意匠の属する分野にあって広く知られた態様であることが甲第1号証、甲第2号証及び被請求人の提出した乙第2号証(意匠登録第454610号、意匠に係る物品「収納台車用車輪」)、並びに当審の調査よる意匠登録第609733号、意匠に係る物品「戸車ローラ」の意匠公報等から明らかなところである。」(審決書13頁16行~14頁9行)と認定するが、誤りである。

なぜなら、引用意匠1(甲第2号証の1)には、小円盤部(以下、原告の主張においては、「突出部」という。)が存しないから、審決で引用されている証拠の全てについて、「正面視すると大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し」の点が共通するものではない。また、引用意匠2(甲第3号証の1)では、大円盤部(以下、原告の主張においては、「膨出部」という。)は薄肉で、これより中円盤部(以下、原告の主張においては、「左右部」という。)が厚肉になっているから、審決において引用されている証拠の全てについて、「肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小めでやや薄肉の中円盤部を突出し」の点が共通するものでもない。

さらに、株式会社ヨコヅナが発行した戸車のカタログ(審決乙第1号証、本訴甲第4号証、以下「本件カタログ」という。)の6頁における中央膨出型の各戸車では、中央に膨出部が形成されているだけで、左右部を有する形態とはなっておらず、審決の認定する基本的構成態様に該当しない。

この種戸車においては、全体の幅よりも最外周径(直径)が大きく、外周中央に膨出部が形成されていることが共通した基本形態であり、このことは、公知意匠1(審決乙第2号証、本訴甲第5号証)及び公知意匠2(審判での職権調査による証拠、本訴甲第6号証)からも明らかである。

(3)  戸車の形態としては、戸車全体の直径に対する厚さの比率をどの程度にするかによって、大いに差が生じるものであり、特に、本件意匠と比べて明らかに非類似の戸車に関する本件カタログに、戸車の寸法例が多数記載されていることを理由に、本件意匠における戸車の直径に対する厚さの比率が周知と認定することは、意匠相互の関連性の有無を全く無視したものといえる。

また、戸車の意匠としては、膨出部の形状、大きさ、太さや高さ及び近辺形状に力点が置かれるものであり、これらがそれぞれ相違することによって、意匠的に新たな戸車が創作されて行くものである。

以上の点に反する審決の認定(審決書14頁14行~15頁16行)は、戸車についての新たな意匠の創作保護を否定するものであって、不当である。

(4)  引用意匠1と本件意匠とを比較すると、引用意匠1は、ずんぐりとした幅太で、膨出部の突出度合が高く目立つものであるのに対し、本件意匠は、全体にスマートで膨出部も低いものである。また、引用意匠1では、突出部のない二段階であるが、本件意匠では、膨出部、左右部及び突出部の三段階である。しかも、引用意匠1は、ずんぐりした幅太のものであり、四角ばったイメージを与えるのに対し、本件意匠では、膨出部を挟んだ左右部の周面が斜状に形成され、膨出部から左右部へと至る境界部分を鈍角にし、境界部分の直角感をなくして四角ばったイメージでなく、各段階のつなぎがやわらいだ外観イメージを看者に惹起している。さらに、本件意匠では、左右部及び突出部の周面が斜状に形成されたことに伴い、形状線が側面視では接近した二重円形線として現れるが、周面がフラットな引用意匠1には、こうした形状線はなく、単純な一重円形線しか現れないものである。

引用意匠2と本件意匠とを比較すると、引用意匠2は、膨出部の幅が全体幅に比して著しく細く、非常に華箸なイメージがするものであるのに対し、本件意匠は、膨出部と左右部との間が斜状によるテーパ感を現しているから、スマートで安定感のあるイメージを惹起させるものである。特に引用意匠2は、膨出部の周面が円弧形に形成されているので、周面の部分で膨出部が細まって視覚されることになり、その細い膨出部の左右部では、幅が大でその周面が水平になり、膨出部と直角をなしていて剛直感をイメージさせるものであり、華奢なイメージの膨出部を補強するようなアンバランスな外観をなしているうえ、本件意匠のような接近した二重円形線が出ない点で相違する。

公知意匠1と本件意匠とを比較すると、公知意匠1は、全体の幅が非常に大きいものでかなり横幅が太いことから、幅太のずんぐり、かつ、どっしりした重量感のあるイメージを惹起させ、しかも、膨出部及び左右部の各周面の隅部が丸く隈取りされていて、柔和なイメージをも惹起させる。これに対し、本件意匠は、各周面の隅部がエッジになってスマートなイメージを惹起させ、しかも、全体の最外周径に対して全体幅の比が小であり、細身で一層軽快なイメージを惹起させる。なお、公知意匠1の類似1ないし3の意匠公報(甲第7、第8号証、乙第2号証)によれば、これらの類似意匠も、幅太でずんぐり、かつ、どっしりした重量感のあるイメージを共通して視覚させるものであり、幅狭くて細長いスマートなイメージを惹起させる本件意匠とは、意匠創作の基調を異にするものである。

公知意匠2と本件意匠とを比較すると、公知意匠2は、膨出部だけが異常に突出したイメージが強いものであり、左右部や突出部の外径がより小さく、小じんまりと膨出部の両側に位置して見えるものであり、全体的には膨出部とその近辺形状とがきわめてアンバランスで、やや幅太の独特のイメージを惹起させるものであるのに対し、本件意匠は、膨出部の膨出高さが低く、左右部も細幅であり、全体的にバランスのとれた細身のスマートなイメージを惹起させる。

以上のとおり、引用意匠1及び2並びに公知意匠1及び2は、戸車の外周中央部が膨出しているという点で本件意匠と共通しても、その膨出部の形状、大きさ、太さや高さ、さらにはその膨出部を挟んでいる左右部の形状や大きさ、太さ等に重要な相違点がある以上、意匠として全体観察をした場合、これら各意匠は、本件意匠とは類似せず、全く別異な意匠を形成しているものである。このような各意匠が、本件意匠の出願前より存在することにより、なぜ本件意匠の創作性が否定されるのか定かでなく、本件意匠とは全く非類似の種々の態様によって本件意匠の新たな創作性を否定することはできないものといえるから、この点に関する審決の判断(審決書15頁17行~16頁4行)も、誤りである。

第4  被告の反論の要点

1  取消事由1及び2について

審決の引用参考意匠1及び2の認定において、仮に、被告が作図した図面に寸法上の誤りがあったとしても、基本的形態について大所的に判断した審決の認定に違法はないし、戸車の形態全体の直径に対する厚さをどの程度にするかなどの鎖末な問題を、殊更強調するのは妥当でない。

2  取消事由3について

意匠法では、登録意匠のみならず、この登録意匠に類似する意匠をも保護することが規定されており、極端な寸法比の違いがなければ意匠の基本的形態を一にする限り類似するとするのが妥当であり、創作力(独創性)についても基本的形態を基準にするのが妥当である。

公知意匠1の類似3の意匠公報(乙第2号証)によれば、当該類似意匠と公知意匠1との形状に相当大きな違いがあったとしても、基本的構成態様が同じであれば類似意匠として登録されることが示されており、戸車の直径と厚さの比率は、当業者が任意になし得る選択的事項であることが明らかといえる。また、公知意匠1の膨出部の隅部が、隅丸状のアール形状であろうと、エッジ形状であろうと、全くの微差にすぎないものである。

したがって、引用意匠1及び2並びに公知意匠1及び2から本件意匠が容易に創作できたとする審決の判断(審決書13頁9行~16頁4行)に、誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1及び2(引用参考意匠1及び2の誤認)について

原告は、審決における、引用参考意匠1(審決甲第1号証の二、本訴甲2号証の2)の認定(審決書12頁9行~13頁7行)が、参考とされた引用意匠1(審決甲第1号証、本訴甲第2号証の1)の第3及び第5図の寸法と大きく異なるし、引用参考意匠2(審決甲第2号証の二、本訴甲3号証の2)の認定(審決書12頁9行~13頁7行)も、引用意匠2(審決甲第2号証、本訴甲第3号証の1)の第3図と寸法上相違しており、しかも、推測による独断で内部充実形態を描いてあるから、いずれも誤りである旨主張する。

しかし、審決は、本件意匠が、引用意匠1及び2並びに周知意匠1及び2に基づいて、容易に創作できたものと判断しており(審決書13頁9行~16頁4行)、引用参考意匠1及び2は、この判断において全く問題とされていないから、仮に、審決における引用参考意匠1及び2の認定に誤りがあるとしても、それが審決取消事由となるものでないことは明らかであり、原告の上記主張は、それ自体失当なものであるから、これを採用する余地はない。

2  取消事由3(対比判断の誤り)について

(1)  戸車の基本的構成態様について、公知意匠1(甲第5号証)は、肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめの中円盤部を突出し、中円盤部から、該部より小径で極薄肉の小円盤部を突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し、側面の中央に軸着貫通孔を設けた態様のものと認められ、引用意匠2(甲第3号証の1)も、大径の大円盤部が肉厚でない点を除けば、同様の態様のものと認められ、公知意匠2(甲第6号証)も、中円盤部が大円盤部より一回り以上小さめである点を除けば、同様の態様のものと認められる。また、引用意匠1(甲第2号証の1)は、軸着貫通孔を設けた小円盤部に相当する部分が別部材(コロ支承匡体)で構成されているものの、肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめの中円盤部を突出した態様で一体に形成された態様のものと認められる。

したがって、審決が、「この種の態様をなす「戸車」にあっては、本件登録意匠の出願前より、その基本的構成態様が本件登録意のように、肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめでやや薄肉の中円盤部を突出し、さらに、この中円盤部から、該部より小径で極薄肉の小円盤部を突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し、側面の中央に軸着貫通孔を設けた態様のものが、その意匠の属する分野にあって広く知られた態様であることが甲第1号証、甲第2号証及び被請求人の提出した乙第2号証(意匠登録第454610号、意匠に係る物品「収納台車用車輪」)、並びに当審の調査よる意匠登録第609733号、意匠に係る物品「戸車ローラ」の意匠公報等から明かなところである。」(審決書13頁14行~14頁9行)と認定したことに、誤りはない。

原告は、引用意匠1には、小円盤部が存しないから、審決で引用される証拠の全てについて、「正面視すると大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し」の点が共通するものではなく、引用意匠2では、大円盤部は薄肉で、大円盤部より中円盤部が厚肉になっているから、審決において引用される証拠の全てについて、「肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小めでやや薄肉の中円盤部を突出し」の点が共通するものでもないと主張する。

確かに、前示のとおり、引用意匠1は、軸着貫通孔を設けた小円盤部に相当する部分が別部材で構成されているが、引用意匠2並びに周知意匠1及び2は、いずれも大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出しているものと認められる。また、引用意匠2も、大円盤部より中円盤部が厚肉になっているが、引用意匠1並びに周知意匠1及び2は、いずれも大径の大円盤部が肉厚であるものと認められる。そもそも、審決は、引用意匠1及び2並びに周知意匠1及び2のいずれもが、全て前記の基本的構成態様を具備していると認定したわけではなく、前示のとおり、これらの公知の意匠から総合的に勘案して、前記の基本的構成態様が周知であると認定したものであるから、原告の上記主張は、それ自体失当なものといわなければならない。

また、原告は、本件カタログ(甲第4号証)の6頁における中央膨出型の各戸車では、中央に膨出部が形成されているだけで、左右部を有する形態にはなっていないと主張するが、戸車の意匠の一部にこのような基本的構成態様のものがあるからといって、審決の認定する戸車の意匠の基本的構成態様が誤りとなるものでないことは明らかであるから、原告の主張を採用する余地はない。

さらに、原告は、この種戸車において、全体の幅よりも最外周径(直径)が大きく、外周中央に膨出部が形成されていることが共通した基本形態であり、このことは、公知意匠1及び2からも明らかであると主張するが、公知意匠1及び2に審決認定の戸車の基本的構成態様が開示されていることは、前示のとおりであり、原告の上記主張は、この認定を左右するものではないから、それ自体失当なものといえる。

なお、原告は、無効事由3の対比判断(審決書13頁9行~16頁4行)においても、引用参考意匠1及び2の戸車の形態について、寸法を故意に描き直した図面の印象どおり認定することが、重大な誤りであると主張するが、審決の当該部分は、引用参考意匠1及び2の戸車の形態を認定するものではないから、原告の上記主張は明らかに失当なものといわなければならない。

(2)  原告は、戸車の形態として、戸車全体の直径に対する厚さの比率をどの程度にすうかによって、大いに差が生じるものであり、特に、本件意匠と比べて明らかに非類似の戸車に関する本件カタログ(甲第4号証)に、戸車の寸法例が多数記載されていることを理由に、本件意匠における戸車の直径に対する厚さの比率が周知と認定することは、意匠相互の関連性の有無を全く無視したものであると主張する。

しかし、審決は、本件意匠の創作性を検討する前提として、本件カタログに、戸車の直径に対する厚さの比率が様々に設定された例が多数記載されていることを示したものであり、このことは、これらの戸車の意匠が、直接、本件意匠と類似するか否かとは関係なく認定できるものである。しかも、本件意匠と特にその基本的構成態様を同じくする、引用意匠2並びに周知意匠1及び2においても、戸車の直径に対する厚さの比率が様々に設定されていることが明らかである。

したがって、原告の上記主張は、採用できず、審決が、「この種の戸車の形態全体の直径に対する厚さの比率については、本件登録意匠の出願前より、本件登録意匠のものも含めて多種の比率のものが、広く知られていることが乙第1号証の各頁右側に表記された各戸車の寸法及び乙第2号証等からも明らかであり、したがって、この点については、本件登録意匠に格別の特徴があるものとは言い難い。」(審決書14頁14行~15頁1行)と判断したことに、誤りはない。

また、原告は、戸車の意匠として、膨出部の形状、大きさ、太さや高さ及び近辺形状に力点が置かれるものであり、これらがそれぞれ相違することによって、意匠的に新たな戸車が創作されていくものであるから、審決の認定が、戸車についての新たな意匠の創作保護を否定するものであって、不当であると主張する。

しかし、この点についても、審決は、本件意匠が真に創作性を有するものか否かを検討する前提として、本件意匠とその基本的構成態様を同じくする、引用意匠1(小円盤部を除く。)及び2並びに周知意匠1及び2において、原告のいう膨出部、すなわち、大円盤部の外周面から中円盤部の外周面までの間の太さや高さ起ついて、様々な態様のものが設定されており、これらが周知のものとなっていることを認定したものである。

したがって、原告の上記主張は、採用できず、審決が、「被請求人のいう膨出部、すなわち、大円盤部の外周面から中円盤部の外周面までの間の形状、すなわち、該部分の太さや高さについて審案するに、この点についても、甲第1号証、甲第2号証、及び乙第2号証並びに意匠登録第609733号の意匠公報等で明らかなように、該部分の太さや高さについても、本件登録意匠の出願前より、いろいろな態様のものが広く知られていることでもあり」(審決書15頁2~10行)と判断したことに、誤りはない。

(3)  原告は、本件意匠と引用意匠1及び2並びに周知意匠1及び2とを直接対比し、その膨出部の形状、大きさ、太さや高さ、膨出部を挟んでいる左右部の形状や大きさ、太さ等に重要な相違点がある以上、意匠として全体観察をした場合、これら各意匠は、本件意匠とは類似せず、全く別異な意匠を形成していると主張する。

しかし、審決は、これらの各意匠と本件意匠が直接類似すると判断しているわけではなく、前示のとおり、本件意匠が創作性を有するものか否かを検討する前提として、これらの意匠をもって、本件意匠と同様の基本的構成形態が広く知られていることと、戸車の形態全体の直径に対する厚さの比率や膨出部の形状等にはいろいろな態様のものが広く知られていることを明らかにしたものであり、それらが認められる以上、本件意匠は、当業者が容易に創作できたものであって、意匠としての創作性を欠くと判断したものであるから、原告の上記主張は、それ自体失当なものといわなければならない。

なお、本件意匠の、大円盤部の外周面は、平坦面に形成し、側面の中円盤部までを緩やかな傾斜面に形成し、中円盤部及び小円盤部の外周面についても、側面側へ緩やかな斜状に形成しているという点についても、周知意匠1に開示されているものと認められるから、この点に関する審決の判断(審決書15頁10~16行)にも、誤りはない。

したがって、審決が、「被請求人が本件登録意匠の創作の力点がおかれているところとして主張するいずれの態様についても、本件登録意匠の出願前より、前記した周知の刊行物に掲載された意匠に現されていることを勘案すれば、本件登録意匠は、これらの周知の意匠に基づいて、その意匠の属する分野の通常の知識を有する者が容易に創作できたものと言わざるを得ない。」(審決書15頁17行~16頁4行)と判断したことに、誤りはない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成9年審判第7511号

審決

大阪府八尾市南木の本4丁目1番地4号

請求人 有限会社 濱本製作所

大阪府大阪市平野区加美北8丁目11番17号

被請求人 吉村富雄

大阪府大阪市中央区南本町4丁目5番20号 住宅金融公庫・住友生命ビル あい特許事務所

代理人弁理士 亀井弘勝

大阪府大阪市中央区南本町4丁目5番20号 住宅金融公庫・住友生命ビル あい特許事務所

代理人弁理士 稲岡耕作

上記当事者間の登録第976682号意匠「戸車」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第976682号意匠の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

Ⅰ.請求人の申立及び理由

請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として要旨以下のように主張し、立証として甲第1号証、甲第1号証の二及び甲第2号証、甲第2号証の二並びに意匠登録第976682号の意匠登録原簿、同号意匠の意匠公報を提出した。

登録第976682号の意匠(以下、「本件登録意匠」という)は、平成7年8月10日に出願し、同8年9月27日に意匠に係る物品を「戸車」として登録されたものである。

しかしながら、本件登録意匠は、

1.建築金物業界にあっては戸車とは、フレーム乃至ケーシング内に車輪を軸にて枢支したものをいうものであり、本件登録意匠のようにフレーム乃至ケーシングを有しないものは、独立して販売の対象となるものではなく、意匠法第3条第1項柱書の規定に違背して登録されたものであり(無効事由1)、

2.甲第1号証及び甲第2号証に記載の意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号に該当し(無効事由2)、

3.甲第1号証及び甲第2号証に記載の意匠に基づいて容易に創作することができたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当するもの(無効事由3)であるから、同法第48条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきである。

Ⅱ.被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、乙第1号証及び乙第2号証を提出し、その理由について要旨以下のように主張した。

1.無効事由1について

本件登録意匠に係る物品「戸車」については、例えば引違戸等に組み込まれる戸車として独立して販売の対象となっていることは、乙第1号証として提出した第三者、株式会社ヨコヅナが発行したカタログの内容からも明らかであり、また、本件登録意匠に係る物品と共通する物品の登録例としては、乙第2号証として提出した意匠公報に所載の意匠登録第454610号、意匠に係る物品「収納台車用車輪」を挙げることができる。従って、無効事由1についての請求人の主張は根拠を欠いている。

2.無効事由2について

(1)甲第1号証の一及び甲第2号証の二について

甲第1号証に記載の第3図及び第5図の車輪は、全体の外形の大きさに比べ厚みの大きなもので「ずんぐり型」である。請求人は、この第3図及び第5図を参考にして作図したという意匠図面を甲第1号証の二(「甲第2号証の1」と記載しているが「甲第1号証の二」の誤記と認められる。)を提出しているが、甲第1号証の二の図面は、甲第1号証に記載の第3図及び第5図を参考にしたとは到底思えないほど寸法を故意に変え、ことさら本件登録意匠に近づけようと意図したものである。

次に、甲第2号証に記載の第2図及び第3図の車輪は、中央の膨出部がきわめて幅細いものであり、これに基づいて作図された甲第2号証の二についても、寸法上若干の相違があるほか、断面形状が定かでないにも拘わらず断面図を描いている点に疑義がある。

(2)戸車の基本形態について

この種の意匠に係る物品の基本形態は全体の幅よりも外周径が大きく、外周中央に膨出部が形成されていることは共通した基本形状であり、乙第2号証もその1つの証左である。そうして、意匠としてのユニークさを強調するには、膨出部の形状、大きさ、即ち太さや高さ、さらには膨出部近辺の形状等に創作の力点がおかれるものである。

〈1〉甲第1号証の「第3図」との比較

両意匠は、外周中央に膨出部を有し、全体幅に対する膨出部の幅との比は共通するが、外周径と全体幅との比及び膨出部の幅と膨出高の比が相違し、しかも、本件登録意匠は、膨出部の左右側面が傾斜し、左右部の周面を斜状に形成しており、側面視すると外部が二重円形線で現れるが甲第1号証にはこうした形状線は現れていない。

従って、本件登録意匠は、全体がスマートで膨出部の低いものであるのに対し、甲第1号証は、ずんぐりとした幅太で膨出部の突出度合いが高く目立つものである。(同証「第5図」は外周端がアールになった点でのみ第3図と異なるゆえ省略する)

〈2〉甲第2号証の「第3図」との比較

両意匠は、外周中央に膨出部を有し、外周径と全体幅との比及び全体幅に対する膨出部の高さ比は共通するが、甲第2号証の場合、膨出部の幅が全体幅に比べ著しく細く、周面が弧状に形成されていることから、膨出部が非常に細い華奢なイメージとなり、強い特徴として視覚されるものである。また、膨出部の左右は水平をなし、本件登録意匠のように側面視して外部が二重円形線で現れず、戸車としてのイメージが全く異なる。

以上のとおり、本件登録意匠は、甲第1号証及び甲第2号証の意匠と全体観察した場合、全く別異な意匠を構成しており類似するものではない。

3.無効事由3について

甲第1号証及び甲第2号証にて、本件登録意匠が意匠法第3条算2項に規定する登録要件としての創作性を否定されるものではない。

Ⅲ.当審の判断

1.本件登録意匠

本件登録意匠は、平成7年8月10日に意匠登録出願をし、平成8年12月18日に設定の登録がなされたものであって、当該意匠登録原簿及び出願書面の記載によれば、意匠に係る物品を「戸車」とし、その形態については、別紙第一に示すとおりとしたものである。すなわち、全体の基本的構成態様を肉厚で大径の円盤状部(以下、「大円盤部」という)の両側面から、該部より一回り程度小さめのやや薄肉で中径の円盤突状部(以下、「中円盤部」という)を突出し、さらに、この中円盤部から、該部より二回り程度小さめの極薄肉で小径の円盤突状部(以下、「小円盤部」という)を突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出しており、側面の中央に全体の直径の略1/4弱の直径の軸通貫通孔を設けたものとし、各部の具体的な構成態様については、大円盤部の外周面は平坦面に形成し、側面の中円盤部までを緩やかな傾斜面に形成し、また、中円盤部及び小円盤部の外周面については、側面側へ緩やかな斜状に形成し、全体の直径に対する厚さの比率を略3:1とし、大円盤部と中円盤部との肉厚の比率を略4:5:1としたものである。

2.各甲号証の意匠

1)甲第1号証の意匠

甲第1号証は、昭和61年12月17日公開の公開実用新案公報に所載の昭和61年実用新案出願公開第201470号、考案の名称「戸車構造」に記載された第1図、第3図及び第5図に現された「コロ(以下、「車輪」という)」の意匠であって、その形態は、別紙第二に示すとおりとしたものであり、まず、第1図に現された意匠について検討するに、当該図面は、引き戸などに使用される極一般的な態様のフレームに枢支された車輪を斜視的に現したものであって、その車輪の形態の大部分はフレームに覆われ、その意匠を正確に把握することができるものではないが、記載の図面から推察すると、全体の基本的構成態様を肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度の小さめのやや薄肉の中円盤部が突出した態様を一体に形成し、正面視すると大円盤部から中円盤部が左右に階段状に突出し、側面の中央に軸通貫通孔を設けたものとし、各部の具体的な構成態様については、大円盤部及び中円盤部の外周面は平坦面に形成したものである。次に、第3図について検討するに、当該図面はその全体形状を示したものではないが、記載の図面から推察すると、全体の基本的構成態様を肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度の小さめのやや薄肉の中円盤部が突出した態様を一体に形成し、正面視すると大円盤部から中円盤部が左右に階段状に突出し、側面の中央に全体の直径の略1/8強の直径を有する軸通貫通孔を設けたものとし、各部の具体的な構成態様については、大円盤部及び中円盤部の外周面は平坦面に形成し、全体の直径に対する厚さの比率を略2:3:1とし、大円盤部と中円盤部との肉厚の比率を略2:1としたものである。次に、第5図について検討するに、当該図面についても全体形状を示したものではないが、記載の函面から推察すると、各部の具体的な構成態様における大円盤部の外周面角部分を隅丸に形成している点を除き、その余は第3図の意匠と略一致するものである。

2)甲第1号証の二の意匠

甲第1号証の二は、請求人が甲第1号証の第3図及び第5図を参考に作図したというものであって別紙第三に示すとおりにしたものである。そこで、甲第1号証の二に現された意匠について検討するに、全体の基本的構成態様を肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめのやや薄肉の中円盤部が突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部から中円盤部が左右に階段状に突出し、側面の中央に全体の直径の略1/6弱の直径を有する軸通貫通孔を設けたものとし、各部の具体的な構成態様については、大円盤部及び中円盤部の外周面は平坦面に形成し、全体の直径に対する厚さの比率を略3:7:1とし、大円盤部と中円盤部との肉厚の比率を略1:4:1としたものである。

3)甲第2号証の意匠

甲第2号証は、昭和60年5月15日公開の公開実用新案公報に所載の昭和60年実用新案出願公開第68270号、考案の名称「引戸装置」に記載された第3図に現された「戸車」の意匠であって、その形態は、別紙第四に示すとおりとしたものである。そこで、第3図に現された意匠について検討するに、全体の基本的構成態様をやや薄肉で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめのやや肉厚の中円盤部が突出し、さらに、この中円盤部からその直径を該部の直径の略1/2程度の極薄肉の小円盤部を突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部、中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し、側面の中央に全体の直径の略1/14弱の直径を有する軸通貫通孔を設けたものとし、各部の具体的な構成態様については、大円盤部の外周面は弧状とし、中円盤部及び小円盤部の外周面は平坦に形成し、全体の直径に対する厚さの比率を略3:5:1とし、大円盤部と中円盤部の肉厚の比率を略0:7:1としたものである。

4)甲第2号証の二意匠

甲第2号証の二は、請求人が甲第2号証の第2図及び第3図を参考に作図したというものであって別紙第五に示すとおりにしたものである。そこで、甲第2号証の二に現された意匠について検討するに、全体の基本的構成態様をやや薄肉で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめのやや肉厚の中円盤部が突出し、さらに、この中円盤状部からその直径を該部の直径の略1/2程度の極薄肉の小円盤部を突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部、中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し、側面の中央に全体の直径の略1/5弱の直径を有する軸通貫通孔を設けたものとし、各部の具体的な構成態様については、大円盤部の外周面は弧状とし、中円盤部及び小円盤部の外周面は平坦に形成し、全体の直径に対する厚さの比率を略3:2:1とし、大円盤部と中円盤部との肉厚の比率を略0:7:1としたものである。

3.無効事由3について

そこで、請求人が主張するように本件登録意匠が、甲第1号証及び甲第2号証に記載の意匠に基づいて容易に創作できたものであるかについて審案するに、本件登録意匠及び甲第1号証並びに甲第2号証の形態については、前記の認定のとおりである。そうして、この種の態様をなす「戸車」にあっては、本件登録意匠の出願前より、その基本的構成態様が本件登録意匠のように、肉厚で大径の大円盤部の両側面から、該部より一回り程度小さめでやや薄肉の中円盤部を突出し、さらに、この中円盤部から、該部より小径で極薄肉の小円盤部を突出した態様で一体に形成し、正面視すると大円盤部を中心に中円盤部、小円盤部の順で左右に階段状に突出し、側面の中央に軸着貫通孔を設けた態様のものが、その意匠の属する分野にあって広く知られた態様であることが甲第1号証、甲第2号証及び被請求人の提出した乙第2号証(意匠登録第454610号、意匠に係る物品「収納台車用車輪」)、並びに当審の調査よる意匠登録第609733号、意匠に係る物品「戸車ローラ」の意匠公報等から明らかなところである。ところで、被請求人は、戸車の「意匠としてのユニークさを強調するには、膨出部の形状、大きさ、即ち太さや高さ、さらには膨出部近辺の形状等に創作の力点がおかれるものである。」旨の主張をするので、この点について審案するに、この種の戸車の形態全体の直径に対する厚さの比率については、本件登録意匠の出願前より、本件登録意匠のものも含めて多種の比率のものが、広く知られていることが乙第1号証の各頁右側に表記された各戸車の寸法及び乙第2号証等からも明ちかであり、したがって、この点については、本件登録意匠に格別の特徴があるものとは言い難い。次に、被請求人のいう膨出部、すなわち、大円盤部の外周面から中円盤部の外周面までの間の形状、すなわち、該部分の太さや高さにういて審案するに、この点についても、甲第1号証、甲第2号証、及び乙第2号証並びに意匠登録第609733号の意匠公報等で明らかなように、該部分の太さや高さについても、本件登録意匠の出願前より、いろいろな態様のものが広く知られていることでもあり、また、被請求人が本件登録意匠の創作の力点がおかれているところと主張する、大円盤部の外周面は平坦面に形成し、側面の中円盤部までを緩やかな傾斜面に形成し、また、中円盤部及び小円盤部の外周面についても、側面側へ緩やかな斜状に形成しているという点についても、乙第2号証の意匠の該部分が略同様の態様で現されている。そうしてみると、被請求人が本件登録意匠の創作の力点がおかれているところとして主張するいずれの態様についても、本件登録意匠の出願前より、前記した周知の刊行物に掲載された意匠に現されていることを勘案すれば、本件登録意匠は、これらの周知の意匠に基づいて、その意匠の属する分野の通常の知識を有する者が容易に創作できたものと言わざるを得ない。

4.むすび

以上のとおり、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に違背して登録されたものであり、その余の無効事由について言及するまでもなく、その登録は無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成10年2月6日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙第一 本件登録意匠

意匠に係る物品 戸車

説明 背面図は正面図と、左側面図は右側面図と、底面図は平面図と同一にあらわれる。

〈省略〉

別紙第二 甲第1号証

〈省略〉

別紙第三 甲第1号証の二

〈省略〉

別紙第四 甲第2号証

〈省略〉

別紙第五 甲第2号証の二

〈省略〉

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